小野小町の「花の色は移りにけりな、、、」は女性が老いを嘆く歌なの?

百人一首

~疑問を持ったら調べてみる気持ちを持ちましょう~

百人一首に限らず、どうなのかなぁ、、そうなのかなぁ、、、と不思議に思うことってありますよね。

そんな時には、自分なりに調べてみる習慣をつけましょう。

考える力が付き、想像力も豊かになり、読解力も身についていきます。

国語力は全ての基本ですので、成績も上がること請け合いです。

ここでは、私が調べてみたことをお伝えしたいと思います。学ぶ、ということの参考にしてみてくださいね。

老いを嘆く歌ってホント?

「花の色は 移りにけりな いたずらに わがみよにふる ながめせしまに」(小野小町)

この歌は、女性が年を取って老いてしまったことを嘆く歌ですよ、と聞いたことありませんか?

「花はむなしく色あせてしまった、春の長雨が降っている間に。私の容姿も色あせてしまったわ、いたずらに世を過ごして物思いにふけっている間に」と。

え~っ? そんな意味ぃ? おしゃれじゃないなぁ、、、と、女性としては複雑な気持ちになります。

さて、この解釈に異を唱えているのが、『ねずさんの 日本の心で読み解く百人一首』。

才色兼備の小野小町がそんな歌を詠むのかなぁ、、そのような意味だったら、千年二千年と後世に伝えていきたいって、選者は思うのだろうか。

本当は、「もう若くはないけれど、まだつややかさを失ってはいないわ。散ってなどいないわ。まだまだ燃えるような恋がしたい」という反語的な意味を持っているのではないか、と。

ざっくり言うと、そのようなご意見です。

しかし、私は、ハタと考えたのです。ねずさんのお話ももっとものよう。

彼がそう解釈する根拠はなにかな?どこにかいてあるのかな? 誰が言っているのだろう、と。

興味を持つと調べたくなるのが、人の常ですよね。

そこで、できれば昔の人が書いた解説書、なにかいいのないかなぁ、、、と探し出会ったのがこれ。

『新潮 日本古典集成 古今和歌集』(奥村恆哉 校注 / 新潮社)

この本は、江戸時代に刊行された北村季吟(きたむらきぎん)『八代集抄(はちだいしゅうしょう)』の『古今集』を底本としているそうです。

さて、小野小町のこの和歌は、『古今和歌集』の「春歌(しゅんか)下」に載っています。

奥村恆哉(おくむらつねや)氏の解説によりますと、

もしこの歌が、容姿の比喩と解するのなら、「雑歌(ざっか)」の部にあるべき内容であるし、この説には根拠がないので、言葉通りに理解すべきだ、そうです。

つまり、

(意味)

花の色は衰えて、色あせてしまった。春の長雨が降り続き、私は夜を過ごすためのむなしい心遣いにかまけて、鼻を見る余裕もなかった、その間に。

徒然なる春の夕暮れの、長雨に降りこめられた憂愁が詠いあげられています。

「言葉通りに理解すべき」

『萬葉集』には万葉集の特徴が、『古今集』には古今集の特徴があります。

『萬葉集』には、俗語や日常語を大切にして自分の気持ちを詠うような句が収められているのに対し、『古今集』は、表現が明晰であることが求められました。

「冗語を排し、誤解を許さない、それが『古今集』詞書(ししょ)の文体なのである」

「歌の素材選択においても、より明晰であろうとする志向は顕著で、諸作品みな輪郭がはっきりした対象以外、つかもうとしない。「余剰妖艶の体(よじょうようえん の たい)」は誰も詠まなかったのである。たとえ読んだとしても、それが『古今集』二十巻のうちにとられることはなかった」

『古今集』が余れた時代の律令制社会、秩序を、そのままに

『古今集』は、紀貫之の一貫した思想に支えられています。

紀貫之にとって価値があったのは、人間と自然のあるべきありようだけ。

私的抒情の割り込む余地はありません。編纂方針には、歌の配列にも、素材の取り方にも、それがはっきりと現れているのだそうです。

歌の配列は、『萬葉集』と異なって、四季の部は季節の推移に従い、恋の部は恋愛の展開に従い、順序正しく、機械的ともいえるほど正確に配列されています。

この世のあり様、人間のあり様を、自然の鼓動、人の呼吸に沿って写し取ろうとしています。

取り上げられた同一の素材、桜なら桜、月なら月、は、一群にまとめておかれ、この配列基準は厳格だそうです。

一定の厳格なルールに基づいて、歌が選ばれ、配置されているのが、『古今集』だとすると、「春歌下」の部にあるということは、素直に季節を詠った歌、と受け取るべきなのですね。

この歌、どうも

年を重ねることを憂うる女心とは関係がなさそうです。

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